デジタル・デザインによるデフォルメ・アーキテクチュア

世界の建築事務所vol.08

パリを拠点に活躍するジャコブ+マクファーレンは、ネット社会における典型的なデジタル・アーキテクトだ。彼らはコンピュータによるデジタル・テクノロジーを、ひとつにはコンセプチュアル・ツールとして使用し、さらにはよりフレキシブルで反応的な環境創造のために新しい材料を用いて、建築デザインのプロダクション手段として用いる。彼らの近作である「タービュランス・フラック・センター」(1)「オレンジ・キューブ」(2)や「ユーロニュース・センター」(3)などはその好例だ。
例えば「タービュランス」は、コンピュータにデフォルメされたパラメトリックな情報データを入れ、既存棟がもつグリッド・パターンと融合させて、中庭全体という環境を再創造し、そこから異形の「タービュランス」が3つ隆起してくるというデザイン手法だ。コンピュータによる強烈な有機的フォルムの創出は、私たちの脳が培った従来型の思考法では追いつかない。
彼らの作品は「ヘロルド・ソーシャル・ハウジング」(4)や「ルノー・コミュニケーション・センター」(5)「ホール・トータル」(6)などでは比較的静かなデザインだが、「インテリジェント・シティ」(7)「レストラン・ジョルジュ」(8)「ドックス・オブ・パリ」(9)などの頃からオーガニックな色合いを濃くしてきた。それが「タービュランス」につながるひとつのデザイン系列だ。もうひとつの系列は近年の「オレンジ・キューブ」や「ユーロニュース・センター」だ。両者は共にフランス・リヨンのローヌ川に突き出た半島にある。恵まれた敷地状況に十分反応したコンテクスチュアリズム。対岸の緑や降り注ぐ自然光、あるいは水辺を渡る爽やかな風を取り込む手法が斬新この上ない。「オレンジ」では対角線上に大きな穴を開け、「ユーロ」では建物の横腹にふたつの穴を開けて自然を取り込む。建物のアメニティー向上を目指すサステイナブル・デザインが素晴らしい。
ドミニク・ジャコブは1990年パリ第1大学にて美術史を学び、その後パリ・ヴィルミン建築学校で建築を学ぶ。パリの建築専門大学やヴィルミン建築学校にて教鞭を執る。ブレンダン・マクファーレンは1984年南カリフォルニア建築大学を卒業。同大学で教鞭を執り、1990年ハーヴァード大学大学院で修士号を取得。パリ・ラ・ヴィレット建築学校、ベルラーヘ・インスティテュート、ロンドン大学バートレット校で教鞭を執る。

文:淵上 正幸(建築ジャーナリスト)

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1.タービュランス・フラック・センター

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2.オレンジ・キューブ

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3.ユーロニュース・センター

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4.ヘロルド・ソーシャル・ハウジング

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5.ルノー・コミュニケーション・センター

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6.ホール・トータル

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7.インテリジェント・シティ

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8.レストラン・ジョルジュ

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9.ドックス・オブ・パリ

Portrait: © A.Tabaste NB
Photos: © Nicolas Borel