「場所の記憶を建築にする」パリの日本人若手建築家

世界の建築事務所vol.10

パリの建築事務所DGT.ことドレル・ゴットメ・田根/アーキテクツが、昨年10月「エストニア国立博物館」のオープニングを迎え、これまでの活動にひとつの大きな区切りができたために、10年続いた事務所を解散し、3名のパートナーは、それぞれ独立して設計活動をすることになった。
田根氏はATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTSという事務所をパリで開設。パリを拠点にして17名の多国籍なスタッフと共に、国際的な視点をもって活動をし始めた。事務所名の頭にATELIERがあり、最後にARCHITECTSがあるのは、「Atelier」という創作の場、手仕事、ものづくりの原点。「Architects」という建築家、考える仕事、未来をつくる仕事。これら二つを活動の原点に据えて、新しいチャレンジを続けていく決心だ。
「場所の記憶を建築にする」という事務所の設計コンセプトは、彼の記憶に対する鋭い観察力と洞察力から建築を未来へと繋ごうとする意志から生まれたと思われる。
「エストニア」コンペの“メモリー・フィールド”と呼ばれる応募案は、コンペで規定された敷地ではなく、その近くにある廃墟のランドスケープの中から、ソビエト連邦軍事基地の滑走路を敷地に選んだ。これは田根氏の慧眼のなせる業だ。空虚な長さ1.2kmの滑走路を延長させつつ徐々に傾斜を上げて博物館の屋根へと連係する。シンボリックで無限の彼方へ飛翔するかのような、長さ350m余、幅70m余の伸びやかなフォルムが素晴らしい。負の遺産を希望へと生かそうとする彼らの試みは、多くのコンペ審査員の心を動かしたに違いない。
また「新国立競技場」コンペで田根氏が提案した「古墳スタジアム」は、神宮の森という都心における緑のサンクチュアリーに敬意を表し、形態は古墳形だが建築をつくって緑のランドスケープを減じるのではなく、増やしていくというポジティブな姿勢は好感がもてる。常に周辺環境やランドスケープに目を配っていく設計手法は今後も続きそうだ。
田根氏は「A House for Oiso」や「虎屋パリ店」などの建築の他に、展覧会デザインやインスタレーションも得意で、最近では21_21 DESIGN SIGHTの「建築家フランク・ゲーリー展」も手がけた。新事務所設立直後、芸術選奨文部大臣新人賞や日本での美術館の建築コンペに勝利するなどのニュースが入ってきたのは、幸先のよい未来を象徴している。

文:淵上 正幸(建築ジャーナリスト)

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1.エストニア国立博物館

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2.新国立競技場基本構想国際デザイン競技『古墳スタジアム』

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3.A House for Oiso

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4.とらやパリ店

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5.グラン・パレ・北斎

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6.「Wonderground」デンマーク歴史博物館コンペ

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7.ミナカケル

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8.『Light is Water』CITIZEN Installation

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9.Todoroki House

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10.ゲーリー展

Photos:1,4,5,8. © Takuji Shimmura / 3,7. © Takumi Ota / 10. © Keizo Kioku
Images: Courtesy of DGT.